大蔵省の諮問機関である保険審議会は、八五年五月に生命保険のあり方についての答申をまとめたが、さきの『変貌する生命保険」のなかで、縞著者である大蔵省の関保険部暴論文「近年の行政方針ー昭和六○年答申の実現」を書いている。
このなかで、彼がいっているとおり、〈答申の強調した第一のポイントは、国民のニーズの変化を的確にとらえた新商品の開発・普及と既存商品の再検討・改善〉におか生命保険会社は、国民から集めた保険料を大企業への貸付によって、六○年代の高度成長を支えた稜都市銀行に貸金市場を食いつぶされたという現在も、本質的な役割は変わっていない。
Nの八七年三月末の貸付残高は五兆七一三六億円にのぼるが、そのうち資本金一○億円以上の大企業への貸付が一兆九一五八億円で三三・九%を占め、一億円以上の中堅企業への貸付も含めると四五・五%に達する。
貸付の半分近くが大企業を中心とした優良企業に集中している。
また、Nの資産運用で注目すべきことは、八六年度には有価証券の構成比(三九・六%)が、貸付の構成比(三七・九%)をはじめて上回ったことである。
この株式などの有価証券への投資も、つぎにみるように、大企業の株式を中心とするものであり、大企業を中心とする日本経済への賭けといえる。
きた。
通しを検討し、将来の高齢化社会に備え自助努力の必要性を強く訴えるようになってから〉である。
生命保険会社は、〈昭和五九年一○月の「健保改正」等を背景に、一時払養老保険、個人年金保険、貯蓄保険、疾病保険等を中心に好調な販売実績〉をあげるようになったのだった。
政府の社会保障と福祉の切り捨て政策によって、国民が不安にかられ、やむなく「買う福祉」と「買う医療」などを求め、ここ二、三年の異常な生命保険ブームを生み、生命保険大国をつくりあげたのである。
国民のマネーも、決して自然に生命保険会社へ流れたのではなく、社会保障と福祉の貧困が強制した結果だった。
根幹は国の経済政策にあるとしても、Nなどの「ザ・セイホ」にも責任がないとはいいがたい。
いや、その実態からみて、「ザ・セィホ」は、むしろ社会保障や福祉の切り捨て政策の恩恵にあずかり、国の経済政策と連携してきたといえる。
また、その一方で、この国の富を大企業に集中する機能を果たして総資産一八兆円を九○○人で運用して出口課長は、さきの論文で〈近代的な生命保険事業は保険業務と金融業務をいわば車の両輪として成立したものであり、どちらも「等しく本業」である〉と強調している。
また、〈少数のスタッフが巨額の資金を運用している金融機関としてあまりよくみえない顔をもっている〉とも書いている。
「なぜ運用部門は顔がみえないのか」と聞くと、彼は「簡単なことで、担当している人間が少ないからです」といった。
女子内務職員らの大量削減が進行する同じNのなかで、彼は何度も「人がいない」を繰り返した。
この人材の偏在は、単にシステム一○○を導入した結果ではない。
Nは〈保険業務〉が中心の単なる保険会社から、〈金融業務〉を中心とするマネー運用の財テク会社、マネーゲーム会社に移行しつつある結果といえるだろう。
出口課長はいった。
「金融関係は、五年前までは、四○○人から五○○人くらいで、素人を入れて増やし、いまようやく九○○人です。
私どもの会社ですと、運用資金として毎月二○○○億円のおカネが入るわけで、毎月のおカネを運用するだけで必死になるわけです。
一年たてば二兆四○○○億円になるものすごい量なんです。
本当は一七兆円のストック〔総資産全体〕を根幹から動かさなければいけないんですけど、人が少ないから、それをやると死んでしまいますよ。
いまはちょっとだけ動かしているだけです」彼が上げた毎月一○○○億円を九○○人で毎月、使いきるとすれば、一人平均一億二一二一万円になる。
総資産一八兆円を動かせば、一人平均二○○億円である。
「たいへんな資金量ですから、会社の考え方としては、絶対、相場を張らないということです。
短期の相場判断で、来月はもっと相場がよくなるからというので、今月の一○○○億円をおいておくとしましょう。
来月、もし相場の見通しがはずれたら、四○○○億円になり、月四○○○億円を運用するとなると死んでしまいますよ。
だから、毎月、ベストに近いかたちでおカネを使いきることなんです。
『金持ちは喧嘩せず」ということですが、一番かしこいのは、相場を張らないでコンスタントに投資していくことなんです」これは月単位の話だが、「宵越しのカネは持たず」という、金銭には執着しない江戸っ子の気性のよさとは別の次元である。
「株はどうするかといえば、日本株は毎月二○○○億円の二○%とか一五%ずつとかいう比率を決めて、毎月、一定率ずつ買うことを決めているんです。
どんな株を買うかといえば、東証のなかで優良会社が一○○○社あるとしましょう。
その一○○○社の株価を過去三年とか五年とか比較して、いま割安になっている順に並べて、その順に機械的に買っているんです。
二○○○億円だと一五%でも三○○億円で、たくさん買うから、東証と同じバランスなんです」「東証〔の株価〕が上昇するということを前提にしていれば、これ以上うまい買い方はないわけです。
買ったものはストックに入れてしまって、売ったりしないわけです。
なぜこれがかしこいかというと、一回、買ったら終わりですから、まず株式の売買手数料が最小ですね。
あの暴落のときなんか、われわれは喜んでふだんの倍くらい買ったんです。
その月の買う銘柄も金額も決まっているでしょう。
暴落したらようけ買えるからうれしいと思って買うわけですよ」第一章でみた、ベテラン証券マンのいううまい株の買い方の法則にもかなってはいる。
だが、なんと荒っぽい大まかな買い方だろう。
こうでもしなければ手持ちのマネーに押しつぶされ「死んでしまう」というのだ。
マネーを使いきるための苦労話を聞かされたのは、はじめてだった。
Nは買いに買って、八六年度には国内株式だけで八○一億円も買っている。
国内株式の担当職員は四三人であり、職員一人当たり年間一八六億円以上になる。
東証「営業報告書」によると、年間の立会日数は二七三日であり、担当職員は一人当たりで毎日六八一三万円の株を買っている計算になる。
Nは、こうして莫大な株式をためこんでいる。
出口課長の財務企画室が出版した「金融機関としてのN生命11金融諸活動の紹介」(八七年版)のなかでは、つぎのように誇っている。
〈当社は、上場株式総数の三%強〔三・一七%〕を保有するわが国最大の機関投資家です。
会社数でみると、全上場会社の約四割にあたる七七一社について第一○位までの大株主に名を連ねております〉最大の株を保有しているのは銀行と思われがちだが、銀行で最大の日本興業銀行は第三位で上場株式総数の一・五一%となっており、Nの一分の一にすぎない。
Nが筆頭株主となっている上場会社は七九社、二位株主になっている会社は一○五社もある。
私が「そんな荒っぽい大商いをやっていて大丈夫なのか」と聞くと、出口課長はこういった。
「われわれは日本経済の平均的な成長率に投資するんです。
経済が成長すれば株価は必ず上がります。
だから、日本経済を信じれば株は買います。
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